CHAOS;CHILD 切断による救済の物語

カオスヘッドの続編が出ると聞いて楽しみにしていたもののうっかり忘れ、今回たまたま5pbセールでお安くなっていたのでプレイした。
すごい。ヤバイほど面白かった。さすが俺達の5pb、俺達の千代丸(忘れてたけど)


カオスヘッドの続きの世界が見られただけでも嬉しかったけど、それ以上に単体の作品として素晴らしく、少年の成長物語であり、そして少女を救済するお話だった。

ネタバレ感想です。

 

 

尾上世莉架は明るく天真爛漫で誰からも好かれる女の子。ちょっと抜けてて(拓留が庇護欲を満たせるくらいに)、ちょっとバカで(拓留が自分の知識をひけらかすと「すごーい!」と驚いてくれるくらいに)、拓留と同じように都市伝説や不思議なことが好き(拓留が孤独を感じないくらいに)。

複雑な家庭環境だった拓留より悲惨な環境で育っていて(拓留が憐れめるくらいに)、拓留のことを「タク」と呼び「タク」のすべてを肯定する(拓留が自尊心を守れるくらいに)。いつも拓留の一番そばにいたい。だってタクのことが大好きだから。

そして、拓留の願いを叶えるためなら手を汚すことも身を投げ出すことも厭わない。拓留にとって都合のいいお人形。 なんでも望みを叶えてくれる美少女形ドラえもん

 

彼女の正体は人間ではなく、拓留が生み出した願望を叶えるために存在するイマジナリーフレンド(空想の友人、脳内の友達)。だからこの性格付けは当たり前といえば当たり前だけど、改めて心が痛い。つまりつまり、通常設定されたギャルゲーのヒロインまんまじゃん。

尾上は心地よいストレスのない非現実世界を作るためのシンボルフラッグのような存在で、その世界をギャルゲのテンプレ概念を持って受け止めるユーザーは擬似的に宮代拓留とイコールの存在になってしまう。

 

妄想科学ADVシリーズというか、カオスシリーズの主人公は、一般的な主人公らしい主人公に比べて脆く、痛々しく、弱い。カースト的にも生々しく非力なオタク層に属する。

拓留もなんだかんだ喚いては女の子によしよしコミュニケーションを取られる男で、来栖への反発なんかは赤ん坊の癇癪そのものだし、香月バッドエンドルートでは目の前に迫る怪物に怯えながら香月行け!やっつけろ!と叫び、拓留のために香月が命を落としても脳内モノローグでごめんの一言もなく絶叫するだけで、ウワ〜〜も〜〜この人どうしようもねえ〜〜、という絵に描いたような「俺ら」感が溢れている。

来栖は世話焼きママだし尾上も馬鹿なフリまでして思考読み取ってよしよししてくれるママだしダメ男製造工場みたいな環境。言い換えれば天国。

明らかに拓留に非があるシチュエーションでも拓留を攻撃する他者にタックルかます尾上とか、拓留の汗が染みたタオルに大喜びする尾上とか、その時点では擬音系幼馴染キャラぶってるけどなかなかキマってる女だな〜と思ってたけど、タク以外に生きる意味がない存在だったと知ってからはそれらが健気で愛おしくて仕方ないです。

 

そんな尾上と拓留の関係は共依存だった。

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Trueの拓留のセリフで気づいた。

拓留は、辛いことすべてから助けてほしい、誰かに必要とされる存在でありたい、孤独を埋めてほしい、承認欲求を満たしたい。

尾上は、拓留に必要とされたい、拓留に願われたことを全部叶えたい、拓留を自分だけのものにしたい、拓留を理解できるのは自分だけでありたい。

(自分がいちばんにタクを理解できていれば、拓留が他の女の子と恋仲?になっても死んでも構わない。相手の女より自分が優位であれば。でも来栖は拓留にとって数少ない唯一の存在の1人だから許せなかったんだろうなあ…来栖にズバズバ言い当てられてドロドロした感情吐き出す尾上が可哀想でかわいかった。絶対零度の残酷な声で来栖を煽りつつ拓留にはいつもの猫なで声で話しかけて高笑い。最高にかわいい)

この互いの気持ちがぴったりとハマって、2人の関係は閉じたものになってしまった。一見居心地がよく最高に安心できる世界だけど、そこに成長はなく、閉じこもれば発作的にまた同じ悲劇を繰り返し一緒に堕ちていくだけ。

 

拓留が共通ルートの最後で尾上にディソードを振りかぶったときに奪ったものは尾上の記憶であり、拓留と尾上の関係性でもある。

2人の結びつきを切断することで、もとは1人の人間だった2人をそれぞれ別個の人間として自立させた。拓留はこの判断を下した時点で、弱くて喚いているだけの守られていた少年ではなくなる。

共依存世界の破壊がもたらしたものは、人形としてしか生きられなかった尾上世莉架の救済で、また、常に誰かに助けを求めて苦しんでいた宮代拓留へ、成長という強さを与える儀式でもあった。

 

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拓留はニュー尾上には尾上のことを「親友」と告げていたが、和久井に対峙するときは「好きな子」と言っている。

尾上に対して「親友」という表現を使うのがすごく、すごく良い。拓留が冷静であろうとした気持ちや今の尾上への思いやりや深い愛が伝わってきて。和久井にぶつけた言葉は自分を奮い立たせるためのエゴみたいなもので、尾上(自分で自分に縛り付けてしまった尾上)のことを好きだったのはエゴだと、拓留が認識しているようでせつない。でもそれは不器用な彼なりの優しさであり最大限の情だろうと思う。

拓留が一貫して地の文で「世莉架」と下の名前で呼んでいた女性は尾上だけ。最初から、尾上世莉架は宮代拓留にとって“特別な女の子”だった。

  

どうか尾上拓留のことを思い出してほしい、タク!と呼びかけて手を引いてほしい、2人が恋をする甘い夢を見せてほしい、と思って読み進めてしまったけど、最後の別離が物語の締めとして静かで美しく、ああそうか、そうでないと拓留が苦しみながら断ち切った意味がないもんな、と納得できた。大人になるってせつないことだなあ。

まだまだ浸っていたいし私自身はなかなか大人にもなれないので、ラブちゅっちゅの発売が楽しみです。