「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」不可逆の少年時代

ループものが好きだ。タイムリープが好きだ。


今でも多くのタイトルに大きな影響を与え、そのジャンルの金字塔と言われるYU-NOがずっと気になってはいたが、なかなかプレイすることができなかった。
かつてソフマップの中古売場で見かけたelf大人の缶詰はプレミアム価格がついており、いつか…と思っている間にWindowsのバージョンは上がり、時代は巡り、elfは倒産し、最初にこの作品を知った時点から10年は経ってしまったと思う。


その間に菅野さんの作品には触れており、EVE、サイファー、ミステリート、探偵紳士あたりはプレイした。どれも面白かったが、この中だと個人的にはミステリートが好きだなーと感じた。後から知ったが、ミステリートは菅野作品の中でもキャラクターを立たせることを意識して作られた作品らしい。つまるところ、普段の菅野作品とは毛色が違うのかも。

 

そして2018年(発売日に買って1年寝かせてしまった)初めてプレイしたYU-NOは、うーん、言葉を恐れずに言えば、いろいろなギャップがすごかった。
たしかに20年前にこの作品が存在していたこと、そして20年前の作品なのに今プレイしても面白いこと、これはものすごいことだとは思う。


ただ、「すごい」「おもしろい」という驚きの重きが置かれているのが、シナリオよりもシステムや世界構築の部分が大きかったのでは?と感じてしまった。
特に異世界編はやたら壮大で時間的にもかなりの年月が描かれているのにあらすじのようなスピードで物語が駆け抜けていき、主人公に感情移入をすることができなかった。
現代編は2日?程度の出来事をあれだけ綿密に描きシビアな時間経過の中を何周もさせられて、そこから突然の大味の異世界のギャップ。

本来異世界編をメインにしたかったが時間が足りずこういった形になったという裏話も見たが、異世界編の物語の動きに感情移入ができないせいで、=根幹の部分が陳腐に感じられてしまって勿体無かった。

 

以下、それぞれのルートの感想など。


<現代編>
■亜由美
義母兼未亡人。真っ先に攻略した。
亡くなった(亡くなってはいないが)夫より主人公と年が近いため、他ルートではセクハラ放大の主人公が初恋にドギマギする少年のようにおとなしく壊れ物を扱うように振る舞っているのがかわいかった。
彼女の人生の中で5本の指に入りそうな大変な2日間が描かれているというのもあるだろうが、自立しているようで他人への依存度が高く、受け入れて抱きしめてくれる人を常に探している女性に見えた。
その反面、会社での振る舞いや、メディアに映った自分がどう切り取られるかまで意識していたり、主人公に女を感じさせないために自分の一人称を「亜由美」にしていたり(?)と策士だなあと感じるところもあり。
一人称「亜由美」が女を感じさせないように…っていうのがよくわからなかった。それこそ主人公をめちゃくちゃ子ども扱いしている無神経な年上のフリをするなら「お母さん」とかじゃだめだったのか?理系で女が少なそうな環境由来のオタサーの姫的な癖があるのではと思ってしまった。
しかも「女を感じさせないように」という意識が働いていたということは、少なからず主人公が自分のことを女として見ていることを理解していたわけで、そのうえでああいうやりとりしちゃうんだ…。

性格が悪いわけではないけど利己的で、自分のために動くけどできるだけ悪く思われないように予防線は張っておきたくて、ただ基本的には相手を信じる、それゆえのチョロさみたいなものが見え隠れしていて、いかにもな甘い女の子の生々しさがあった。この人は、まだまだ女の子でいたいんだろうなあ。
総合して聖女になりたがる一般人みたいだなあと思えて、ヒロインの中では一番好き。異世界での役割もなんかそんな感じでしたね。

 

■美月
人気女子アナ兼産業スパイという設定がすごい。
亜由美ルートでお世話になったのでなんとなくカッコイイと思ってプレイしたら裏切ることしかしてこなくて笑った。
何かに操られていた!とか悲しい過去!とか愛の力で改心!とか一切なくただやりたいようにやってるからこの人は根っからこういう人なんだな、という自由形が良いと思います。
今のギャルゲ(テキストゲームでヒロインごとに物語が分岐するものの総称)でなかなかこういうヒロインいないよね。商業的に難しそう。
プレイしていて彼女の感情に理解が及ばなかったのでもう好きにしてくれ~という感じだった。主人公と寝た後に「君の父親ともやったから息子ともやってみたかったw」とあっけらかんと言うのは本当すごい女だなと思って好感を持った。


やってみたかったwではないけど、どこか父親(夫)と同じような似たようなものを得られないか確かめるような思いで主人公と交わったのは亜由美も同じなんだろうなーでも亜由美はそういう言い方はしない狡さがあるんだけどなー。
美月ルートのラスト、研究所から宝玉を使って移動する際にアシストしてくれる亜由美はかっこよかった。父親(夫)の手紙であれだけ強くなれるんだから、やっぱり亜由美が愛してるのは最終的には父親(夫)なんだろう。

 

■香織
校長の愛人、主人公の元セフレ。ただれている。
この人の場合は操られていたりと不憫ではあるけれど、荒れ狂ってる時期の高校生に手だしてただれちゃってる時点でなんかなんともいえないメンヘラちゃんの匂いがする。
ゲーム開始時に主人公との関係は解消されているが、個人ルートでは関係性が中途半端に復旧されてるのがなんだか泥沼感ある。むしろ泥沼感しかない。


亜由美ルートで亜由美とギクシャクしてる時に主人公にキスしてきたりと、そんなつもりはなかったと言いつつそういう波乱をわざと起こして悲劇の登場人物になりたがるタイプの女なのかな、と邪推してしまった。
高校生の男の子が思い描く大人の匂いのするアダルトなお姉さんを具現化したらこんな感じなんだろうけど、誰が好きなのか、そもそも何がしたいのかよくわからなかったのがマイナス印象。操られてたから仕方ない…(伝家の宝刀)。
主人公が主人公で彼女にそれなりの情を持ってしまっているのでプレイしていて温度差はあった。

 

■澪
同級生のツンデレ女子。主人公のことが好き。
かわいくて無垢でやっとギャルゲのヒロインっぽい子が出てきて嬉しい。
しかし、歴史や地理の知識に長けていておそらく頭はいいのだろうけど感覚的な要領が悪い。学生・日常生活の象徴サイドのヒロインなので、彼女の考察はいいところまで行くけど結局大きな物語の中で彼女自身に与えられた役割というのはほかのヒロインより少なく、やや蚊帳の外の印象を持った。
澪ルートで登場頻度の高い結城も可哀想なキャラで、中盤の張り紙の件も可哀想だしそこから挽回することなく最終的な結末を迎えてしまうのも可哀想。
澪は考古学オタクなので考古学の学者である主人公の父親を尊敬していて、その底上げがあって主人公の好感度も高くなってるような気がしないでもない。これは澪に限らずどの登場人物もそうなので、父親が英雄であること・偉大な英雄の息子が主人公であること、が作品の重要な要素なのかもしれない。
全ての事象はつながっていて、等しく描かれているので正史もクソもないが、個人的に澪のエンディングの正史は、澪を地上に逃した主人公が地下に引き返すものだと思っている。人一倍探究心を持った彼女はしかし物語の核心に触れることなく、1人悲劇のお姫様として生きていく。

 

■神奈
いかにも謎がありそうな感じの転校生。売りやってる綾波
無口系ミステリアスな一人暮らしの女の子で、今のギャルゲ文法でも全然ありそうなストーリー展開とキャラ設定だった。変わらない長く愛される味なんだと思う。
謎がばらまかれるだけばらまかれるが、彼女のルートで明らかになることは少ない。異世界編へのインタールードのような役割なのかも。
搾取・消費されて生きている女の子を救うのはボーイミーツガールストーリーの永遠の王道だし、冷たくなった神奈に超念石を与えて目を覚まさせるのは童話みたいで良かった。でも死にそうなときに外でやるなよ。
異世界編をクリアすることで神奈の出生の秘密がわかるようになると、結局不幸の種をばらまいたのが主人公でなんとも言えない気持ちになる。マッチポンプである。

 

■恵里子
保険医の姿で現実世界にやってきている次元パトローラーのお姉さん。かっこよくてお茶目でかわいい。最高。
いかにもな雰囲気でいろいろと事情を握っているので作中で非常に助けになった。彼女の愛する恋人はアーベルなので、主人公と恋仲になるルートが存在しないというところに信念を感じられてよかった。影の主人公として特別な存在感があった。
アーベルというと菅野さんの立ち上げたブランド名を思い出してしまう。彼の名前からとったものなのだろうか。


異世界編>
まず主人公の行動理念とキャラクターがかなり変わってしまった気がする。

現代編では口先ではセクハラ小僧ながらも理知的・理論的な思考を持って動いているように感じたが、異世界に飛んでから理論的思考が消滅し本能直結型となる。何故。突然大野生時代に放り込まれたため順応したのかもしれないが、さすがにどうよという行動も多く置いてきぼりになることも多々あった。
人物が変わること自体が問題なのではなく、なぜ・どうしての部分が描かれないまま、原因から結果へジャンプしてしまっているというか、骨組み丸出しで肉付けが無いというか。
たとえどんなにクソ野郎になっても、そうなるだけの理由や葛藤が描かれていれば物語として見られたのにという気がしてならない。

 

■セーレス
異世界を救う巫女。言葉が話せない。
主人公の子を産み、妻となるヒロイン。巫女、お嫁さん、お母さん、「そういうもの」をそのまま描いた感じ。もちろん最高にかわいいが、物語のための舞台装置感が否めない。
何故ボーダー付近をさまよっていたのか、なぜ主人公のことを愛するようになったのか(あの辺境に男女が2人だけだったからだとしたらアダムとイブのようなことが描きたかったのかと思わなくもない)、
また、彼女の性格を考えると自分が犠牲になれば世界が守れるなら受け入れそうなのに、何故そもそも巫女の仕事を拒んでいたのか、など
話せない(話さない)ことが多いので何を考えているのかよくわからない。そこがいいのかもしれないけれど。
巫女の禁を破って言葉を話したこと、男と交わったことで押しかけてきた兵士に乱暴をされて自害する。この辺も主人公への今後の動機づけのための要素でしかないように思えてしまって、セーレスとはなんだったのか、主人公と切り離したセーレスという1人の人間としてのインパクトが薄い。平穏な夫婦生活のシーンがほぼ描かれていなかったので思い入れもしづらかった。

 

■ユーノ
主人公とセーレスの間に生まれた娘。
異世界の人間なので成長が早く、4年ほどで成体(大人の女性)になる。セーレスと同様にユーノも描写が少なく、主人公が愛娘としてかわいがっていたのは間違いなかったが、どこか愛玩動物のように見えた。


精神的には4歳程度ながら肉体は大人に成長しているので、思考と肉体のアンバランスさが相当あるのもひっかかった。主人公のことを好き好き言っているのもまさしく家族愛と異性愛をはき違えているように見え、それだけならまあかわいらしいものもあるものの、父親である主人公がチョイと苦悩しただけで簡単に手を出すのもどうかと思ってしまった。
作品タイトルが彼女の名前なので、この物語はユーノのためにあるのだと思うが、この描き方ではそのあたりもモヤモヤ。
現実的に娘がパパと結婚する~とか言ってるのはせいぜい幼稚園生くらいまでで、成長して思春期になれば反抗期を迎えたり外に目を向けて社会性を身につけたりしてそんな幻想はあっけなく終わるのだ。泡沫の夢なのだ。
それを、思考4歳肉体17歳くらいの社会性のない娘がパパに抱かれるのを良しとする世界観がなんだか気持ちが悪かった。


加えて、ユーノがちょくちょく口にしていた「ママは死んでしまったけどユーノの中にいる」というような発言、精神的なつながりを意味していたり、巫女としての本能的な何かだったりするのかもしれないが、この描写があるたびに、巫女としても女性としてもユーノがセーレスの代用品のように見えてしまった。
幼いゆえに見える世界も狭く、分別の付かない空洞のようなな彼女にアイデンティティなどまだ存在するはずもなく、そこに干渉できる唯一の他者である主人公が、望まれてとはいえ妻にしたのと同じ愛し方をしてしまったのは、彼女を狭い檻に閉じ込める行為に他ならないのではなかろうか。
YU-NOという作品で最も重要な、最も描きたかったシーンがここなのだろうことは理解できるが、そこに至るまでの描写の薄さが、セーレスとユーノという世界の根幹を空っぽな女の子にしてしまっているように感じた。

 

作品を通して賛否両論となった大きなポイントは、クンクンのカニバ描写とユーノとの行為の場面だという。クンクンに関しては、ペット(家族)と食用動物のジレンマとして現在もよく取りざたされるテーマなのでそれほど抵抗感はなかった。
が、それよりその後の主人公の貞操観念というか理性の無さが何より気になってしまった。あの状況でアマンダと関係を持ったのも、神奈を誕生させる設定ありきのために見えてしまったし、やぐらが丸見えで感情が乗っていない、乗っていけない。常に生命の危機的状況にさらされているので種の存続を優先する本能かもしれないし、神話に出てくる神様の行動のようでもあるけれど、もう少し描写が欲しかった。

 

もし、この作品に触れたのが10年前だったら。

年齢が近い主人公により感覚的な感情移入ができたかもしれない。

10年前だったら、今より余計なことを考えずに物語に浸れたかもしれない。

それでも私は10年という時間を過ごして何かを蓄積してしまった。ユーノと同じように誰かの娘だった私は、その記憶を自分の中にとどめながら自分なりの意思や凝り固まった固定概念やなんかを蓄えた大人になってしまった。

知ったものも得たものも、それを得る以前に戻ることはできない。時間は可逆、歴史は不可逆、そして感覚もまた不可逆だ。
リメイク版YU-NOの発売にあたり、オリジナル版に触れたときの興奮を熱っぽく語ってきたかつての少年たちがとてもうらやましかった。この物語は、あの時代に少年だった彼らにとっての秘密基地であり続けるのだろうな。